リサーチ・マニア

2002年 日本人は突然凶暴になった (のか?)

犯罪白書の秘密

1月15日付けの新聞各紙は、2009年は刑法犯が7年連続で減少し、
殺人事件は戦後最も少なかったと報道しました。
(警察庁発表・件数は認知件数)。

こりゃ良かった。「安心・安全が脅かされている」というのが
ここ数年の報道の論調だっただけに、いいニュースだと思ったわけです。
もっと詳しく知りたいと、法務省が発行している犯罪白書を見てみました。

そこで「ありゃりゃ」となったのです。
下のグラフは刑法犯の件数をまとめたものです。
ベース資料は『犯罪白書 平成21年版』
http://www.moj.go.jp/HOUSO/2009/index.html

1946年から2000年までは5年ごとに、
2001年からは毎年の刑法犯の数字をグラフにしたものです。
単位は1000件。
なんと、2002年をピークに2000年から2004年までが
戦後最悪の5年間だったことが分かりました。
戦後の混乱期にも増して、多くの犯罪が起こっていたのです。

なぜか? 不景気のせい? 
それとも、数年遅れの世紀末現象なの?
日本人はなぜ急に粗暴・凶悪になったのでしょうか?


おまけにこれは何なのでしょう。
強制わいせつ事件の件数をグラフにしたものです。
2000年から2003年にかけて、それまで年間3000件から
4000件で推移していた強制わいせつ事件が、一万件近くに達している。
この時期、日本の男達は突然理性を失い、破廉恥漢に堕したのか?
低迷する経済が男達の獣性に火をつけたのか?


そうじゃなかったんですね。
龍谷大学大学院法務研究科教授、濱井浩一さんがお書きになった
『犯罪不安社会-誰もが「不審者」?』(光文社、2006年 芹沢一也・共著)を読んで
よく分かりました。

まず、この犯罪件数ですが、これは認知数といって、
警察が市民からの通報を受けた中から、犯罪として「認めた」件数を表します。
また、逮捕した犯人に余罪を追及し、それを調書にした件数も含まれます。
日本で起きた犯罪行為のすべてを網羅しているのではなく、警察が「犯罪と認めて」かつアクションを起こした件数なのです。

つまり、市民が警察に通報をしても
「そりゃ、民事だ。そんなことまで警察に言ってくるんじゃない。自分たちで話し合え」と警察が取り合わないケースもあるわけです。
また、泥棒が捕まるまでに100件は同じ手口の犯罪を犯していて、
それら全てを改めて捜査し、調書にする。
本当に全部それやったら、警察官はどんだけ残業しても家に帰れません。
調書にされているのは、余罪の一部分ということなんだそうです。

刑法犯の増加は、警察が市民からの通報に対して、
積極的に犯罪として受理するようになったため、というのが濱井氏の論です。

こうした警察の態度の変化は、1999年の桶川ストーカー殺人事件をきっかけに、
民事不介入を盾にストーカー事件などを放置していた
警察への非難が起きたためとしています。
強制わいせつやそれが高じたストーカー被害など、今まで泣き寝入りしていた
被害者が救われるようになったのは、とてもいいことです。

一方、クレームを受け付けて処理をしていた営業人間には、
この「犯罪認知件数」のからくりは、よーく理解できます。
クレームの件数を減らす一番手っ取り早い方法、
それはクレームを受け付けないことである。
と言われます。
クレームとして認知されずに「単に文句を言われただけ」と処理してしまえば、
何も無かったことになるわけで、上司から叱責を受けることもありません。
(ただし、その担当者と企業の信用は確実に落ちていきますけど)。

だとすると、警察の「生真面目さ」いかんで治安の統計は変わってしまうのか?
いったい日本は安全な国なのか? という疑問が出てきます。
殺人や悲惨な事件の記事は必ず新聞に毎日載ってますから。

下記のグラフは、1982年からの殺人事件の件数です。
ご安心ください。すーっと、右肩下がりできています。


でも、少年の犯罪が増えているのではないか?
それも大丈夫。


少年による殺人事件は1998年の115件をピークに、
一昨年も去年も半分以下の50件まで減っています。

統計を見るときは冷静な、複眼視点が必要なのだと知りました。
治安は悪くなってはいない。それどころか、日本人は年々善良になってきている。

でも、街を歩いていたり、電車に乗っていると、皆さんが「安心・安全」を求めるせいか、なんだかプンプンしているような気がします。
さあ、今日もスマイル、スマイル!

2010年2月7日
(本稿終わり)
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