週刊外資系新聞

営業マネージャーのための予算必達術

メルマガ 2011年3月6日号

第3章 外資系企業で求められる語学力

番外コラム2 日本語ネイティブ・スピーカーの発音

日本語には「ん」以外には子音だけの音がない。難しく言うと、すべての発音が母音を伴った有節音であるということになります。

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日本語にも子音だけの音はある
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でも、注意して聞いていると子音だけで発音されている音はありますよ。
例えば「私は○○です」の最後の「す」の音。これは子音だけです。

この「す」を「スー」と息だけ出して伸ばす発音を、10年くらい前から若いサラリーマンがするようになりました。
「ナニナニです」と言い切ってしまって、そのあと間の悪い無言が続きそうな場合に、よく使われたような気がします。

この「ス」は子音とはいえ、合わせた前歯の間から出す音ですから、息だけ出し続ければ音が伸ばせるわけですね。

ところが、関西に行くと「です」の「す」は有節音になります。
関東だと「です」の「で」が高くて「す」は低い。つまり「で」にアクセントが置かれています。関西だとこれが逆になって「で」より「す」の方が高くなります。この場合極端に表現すると「すぅ」という有節音になります。
尻上がりのイントネーションで文が終わりますから、この後の発話が促進されて、なんとも柔らかい感じがします。

しかし、この「す」の母音を強調し過ぎると、ニュアンスがまた変わります。
「アタシ、○○ですう。」
そう、これはブリッコのアイドル歌手の発音です。

母音のアクセントをいじると、響きのニュアンスが変わるのですね。
このことを発見し、作品に取り込んだのは、漫画家の江口寿史です。代表作の『進めパイレーツ』でも、『ストップ!!ひばりくん!』でも、女の子がブリッコするときに
「そんなのイヤですう」と吹き出しにセリフを書いています。
彼は発音のニュアンスを文字表現に取り入れました。

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母音をいじるとニュアンスが変わる
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日本語には5つの母音しかありません。
でも、母音の響きの強さを調節すると、日本語がバタ臭くなって、洋楽リズムに乗りやすくなる。
この技を駆使しているのがサザンの桑田佳祐です。
江口もそれには気付いていて、こんなシーンを描いています。

江口のスタジオに原稿を取りに来た若い編集者が、ラジカセから流れている(時代が時代ですから)「チャコの海岸物語」に合わせて思わず歌ってしまう。
こんな風に。
「かいぐゎんどぇ 
ぅわぁかい ふたぁりぐあ 
こいぅを すぅものぐゎたぁりぃ」。
(江口寿史『ストップ!!ひばりくん!2 メイキング オブ ひばりくんの巻』ホーム社、2004年)

小さい「ぇ」や「ぅ」を入れることで、母音を不自然に強調した発音が表されています。

「が」が「ぐゎ」となるのは漫画でよくある音のデフォルメですが、「する」を「すぅ」にしたのには、心底感心しました。
というのも、日本語のラ行の発音は弱くて、日本人は言うのも聞くのも苦手なのです、と私は思うのです。

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ダーリンさんの高度な日本語力
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今度は新しい漫画家から引用しましょう。
小栗佐多里の『ダーリンは外国人』です。
こんなシーンがあります。ヒゲのダーリンさんが買い物に行った時のこと。

ダーリン:領収書ください。カタカナで「ラズロ」。
店員:タズロ?
ダーリン:ラーズーロー。
(小栗佐多里『ダーリンは外国人 2』メデイアファクトリー 2004年、120ページ)

ラ行の音はタ行かダ行の音に聞こえてしまう。そういうクセが日本語ネイティブ・スピーカーにはあるのだと、私は考えています。

それにしても、ダーリンさんは日本語の達人ですね。
相手が聞き取れないときに、音を伸ばして言い直している。
英語スピーカーなら、音を伸ばす代わりに、声を大きくするでしょう。

おまけに長い音は欧米人には発音が難しいのです。
領収書も「りょしゅしょ」になってしまう。

ラ行の発音が弱いという理由に、もともとラ行の音が日本語にはなかったからではないか、ということが考えられます。(これも私の思いつきでしかありませんけど。)

日本語はウラル・アルタイ語という言葉のグループに属します。(日本語はどの語族にも属さないという説もあります。)このウラル・アルタイ語に共通する特徴のひとつに「R」で始まる単語がないというのがあります。

確かに、『広辞苑』でもラ行のページは全体の3.0%を占めているだけです。「あ」から「わ」までの44文字にページが均等に割り当てられれば、5音揃ったラ行は11.4%が割り当てられて当然でしょう。

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欧米訛りの法則
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江口に戻ります。
先にあげた「メイキング オブ ひばりくんの巻」の冒頭に大変興味深い描写があります。

当時アンディ・ウォーホールが登場するカラーテレビのCMがありました。
ウォーホールが日本語でいくつかの色の名前を言って、最後に「きれい」と言っておしまい、という内容です。

漫画では江口自身がウォーホールに扮して登場し、口真似をします。
(以下原作の表記通り。カッコ内は元の日本語を示す・筆者注)。

あ゛か(あか)
みとぉりぃ(みどり)
きいど(きいろ)
くんちょおい・ろ゛(ぐんじょういろ)
きでい(きれい)

日本語が欧米人にはこういう風に聞こえているのかもしれない。
もしくは我々には欧米人の日本語の発音はこういう風に聞こえる。
このことを見事にまとめた例です。
この場合の発音の法則を箇条書きにしましょう。

1. ラ行がタ行かダ行の音になる。(みどり、きいろ、きれい)

2. 濁音が消える。(みどり、ぐんじょういろ)

3. 日本語にない曖昧な音になる。
濁音の付いた「あ」は、発音記号にするとたぶん[e]だと思います。
口をあまり開かないで、喉の奥から出す「ア」の音です。
また、濁音のついた「ろ」は、「ロ」と「ド」の中間くらいの音ではないかと思います。

話すだけなら日本語は難しくないと言われますが、どの言語でもネイティブ・スピーカーの発音を完全に身につけるのは難しいことです。

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