週刊外資系新聞

営業マネージャーのための予算必達術

メルマガ 2010年6月20日号

第2章 欧米型のマネジメント・スタイルに学ぶ

第5節 褒めて部下は育つか

部下を褒めて育てようという指導法が人気です。
不景気で自信を無くした今の日本人には褒めてもらって、励ましてもらうのが必要なのでしょう。
でも、本当にそれで部下は育つのでしょうか?

部下は叱らずに褒めて育てましょう。
反駁の余地のないような、こうした命題を吟味する時は、反対言葉を考えてみましょう。

「褒める」の反対概念は二つあります。
一つは「無視する」。無視は論外ですね。
結論:無視するより褒めた方がいい。

もう一つの反対概念は「叱る」です。
叱ったり、矯正したりするのには、エネルギーが要りますし、下手をすれば相手の心が離反してしまうリスクもあります。
結論:叱るより褒めた方が楽だし、安全である。

つまり、いいことだし、楽でリスクも少ないので、褒めましょう。ということなのでしょうか?
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「褒める」ブームの背景
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「部下を褒めましょう運動」が流行るのには経済的な背景があります。
右肩上がりの成長が止まり、社員に経済的報償が約束できなくなりました。
言葉で褒めるのに予算は要りませんから、褒めて社員がやる気になってくれるのなら、こんな安上がりなことはない。
企業が飛びつくのは当然です。

しかし、褒め言葉は繰り返すうちに有難味が減って来ますから、そのうち効力がなくなって、ブームも終わるでしょう。

もうひとつ。「褒める」ブームが広がるのには社会的な背景もあります。
アメリカ生まれの「コーチング」といわれる指導法の浸透です。

コーチングとは上司の指示に部下を従わせるのでなく、上司が部下本人の「気付き」を引き出して、部下本人に自発的に業務の改善を行わせようという管理手法です。

「こうしなさい」と指示されてやるのではなく、「ああ、こうすればもっと良くなるのだ」と気付かせて、内在的な動機で人が働くほうが望ましい。
即ち、部下に話をさせ、意見を否定せず、時に効果的な質問をする。
そうすれば人は自発的に動くようになる。

この手法は民主的で、人の気持ちを大切にした管理手法に見えます。
「なんで今まで気が付かなかったのだろう?」
私もセミナーを数回受けて、そう思いました。

しかし、更に関係書を読んだり、じっくり自分で考え直してみると、「自分で決めてやったことだから言訳は聞きませんよ」
「私が命令したわけじゃないんだから、上手く行くまで自分でおやり」という管理側の責任回避が仕組んであることに気が付きました。
言い換えれば、巧妙な自己責任の押し付けではないかと。

というわけで、「部下を褒めましょう運動」は、職場の人間関係が淡白になり、上司が不甲斐なくなった挙句に到来した処世術ではないかと、私には思えてなりません。
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叱るな、怒れ!
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前回登場した副社長・T氏のことを書きましょう。

彼は褒めも叱りもしませんでした。
ただ怒ります。
かんしゃくです。
フォーレター・ワーズ連発です。
(あくまでも社内の話ですよ。社外の人には私よりも我慢強かったです。)

怒るT氏を目の前にして、私の気持ちは離反したでしょうか?
いいえ。
それどころか、私は彼に惹かれました。
なぜか?

褒めることや叱ることは、業務上のオフィシャルな行為です。
教育的な目的を持つ、コントロールされた行為です。

一方、怒ることは、言ってみれば、オフィシャルとプライベートの間の行為です。

オフィシャルな場では、みなシナリオに沿った立場を演じますから、人となりの「地金」が出てしまうことは稀です。
「地金」が露出してしまうのは、怒っている時だと思います。
気持ちが高ぶって、思わず「私」が発露してしまう、公と私の境界の振る舞いが「怒り」なのですから。

保身、責任転嫁、虚偽の言訳。
かんしゃくの中にこうしたネガティブな「地金」が表れたら人心は離れます。

うって変わって、T氏の怒りは「おたけび」でした。
「敵は強力だが、俺は逃げない」
「皆が理解するまで、オレは説き続ける」
強い男の「地金」が露出していました。

「この人に付いていったら面白いことがあるかもしれない」と。
「これがオーラってものか」と。
「この人に褒められたい」と。
見ていた私はそう思いました。

たまには肝っ玉を部下の前でさらけ出して見ましょう。
あなたが目を掛けている部下なら、ちゃんと付いて来るはずです。
そして彼・彼女はあなたの腹心になります。

「褒められたい上司」に部下は尽くします。
要求のレベルが高くなることが、報償となるからです。
口先の褒め言葉は要りません。

成果報告が終わり、私にもう一段困難な要求を出す時に、決まってT氏が使うセリフがありました。

「オレが次に何を頼もうとしているか分かるか?」

T氏はこうして世界中に腹心の部下を育てていきました。

今回もお読みいただき有難うございます。

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