週刊外資系新聞

営業マネージャーのための予算必達術

メルマガ 2010年6月6日号

第2章 欧米型のマネジメント・スタイルに学ぶ

第4節 ファミリー・ビジネスの特徴

娘が映画の宣伝の仕事をしています。
『クレージーハート』というアメリカ映画の試写会が今週あります。
初老のカントリー歌手を主人公にした映画なので、「素人のオヤジたちが弾き語りで歌う」というアトラクションが添えられています。応募者が少ない時に備えて、裏方をしている娘から私にも声が掛かりました。
予想通り応募者が少なかったようで、私が人前で歌うことになってしまいました。
一家総出の大騒ぎです。

今回はファミリー・ビジネスのマネジメントについて考えてみます。

高級ブランドはどれも初めはファミリー・ビジネスでした。
90年代に入り、保守的なその経営を改めれば、大金脈が掘り起こせることに大資本が注目して、グループ企業に買収・統合されていきました。
私が外資系企業で働いた20年間はファミリー企業が大資本のグループ企業へと再編されていく時期でした。

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天才肌の我儘
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ファミリー・ビジネスのマネジメントの特徴は3つあります。
そのことをお話しするのに、今回はフランスのバッグ・ブランドのオーナーZ氏に登場していただきます。

第一の特徴は、オーナーが全てを決め、決定についてのアカウンタビリティ(説明責任=つきつめて言えば“わたしが悪うございました”と頭を下げる責任)を誰に対しても持たないことです。

株式を公開した会社であれば、重要な経営判断について多数の株主に合理的な説明をする責任が生まれます。
ファミリー企業ではこれが要りません。

かといって、独裁君主というのでもないのです。
Z氏の会社の場合はエコール・ポリテクニーク出身の俊才副社長T氏がいて、大抵のことは彼が取り仕切っていました。

ある日、そのT氏が私に愚痴を言いました。

あと一歩で契約という所までこぎつけた商談がありました。
ところが最後になってZ氏から待ったが掛かりました。
理由は「なんとなく嫌なフィーリングがするから」というだけ。
T氏はZ氏と談判をしましたが、それ以上の合理的な説明はZ氏からは得られませんでした。

「どう考えてもお互いにいい話なんだが、オーナーがだめだと言っている。なんとなくダメな気がするから、ダメらしい。すまん、あきらめてくれ」

こんな話を今から相手に伝えるのだと、T氏は自分の苦しい立場を嘆きました。
そう語りながらもT氏は、かつてZ氏のシックス・センスで窮地を救われた経験があるので、Z氏の天才肌の我儘を最重要視していました。

ファミリー・ビジネスのもう一つの特徴。
それはオーナーが会社と一心同体であることです。

Z氏は部下宛に送られてきたファックスやビジネス・レターでも、その部下が出張で不在ならば、勝手に開封して自分で処理してしまいます。

こんなことがありました。
営業部長が顧客を訪問したら、やたらと相手の機嫌が悪い。
当方が何か失礼をしたのかと尋ねると、一枚のファックスを見せられました。
それは、出張中の営業部長宛に届いたクレーム・レターに対してオーナーが作成して送りつけた逆クレームでした。
責任領域を明確に決める近代的な経営ではあり得ない話ですが、「自分=会社」なのですから、この「越権行為」は誰も制止できません。

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愛着か、執着か
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どれほど愛着があっても、永久に自分で会社経営をし続けることはできません。
ここで、ファミリー・ビジネスの3つ目のポイント、世襲の問題が出てきます。

Z氏も息子へ代替わりを考える年齢に達していました。
ところが、この息子氏は仕事一筋の父とは真反対の趣味人。
映画にのめり込み、ドキュメンタリー映像作家になるのだと言っていました。
まるで落語の『七段目』です。

それでも父親に言われ、若旦那は経営者見習として会社に入ってきました。
「可愛い子には旅をさせろ」とばかり、日本にも1ヶ月の予定で送り込まれました。
海外子会社を経営させて、経営者トレーニングをしようと考えたのでしょう。

親の心子知らず。目の届かないのをいいことに、羽を伸ばしました。
朝は会社にやってきません。
そのうち、午後の3時頃にならないと、オフィスに姿を見せなくなりました。
まったくオフィスに出てこなくなったと思ったら、本国に戻されました。

Z氏が会社の相続をあきらめ、大資本のグループに会社の売却を決めたと知らされたのは、その2ヵ月後のことでした。

副社長のT氏の言葉が印象に残っています。

「Z社長は息子に跡を継がせたかったのだが、売却を決めた。“免許も持ってない者に、ポルシェは渡せん”ということだ。」

ダメ息子のせいで自分の会社がおかしくなるのがZ氏には耐えられなかったのでしょう。

愛着を執着にしなかったZ氏の決断に、私は感心しました。

しかし、最近はこんな疑問も抱いています。
果たして大資本へのブランドの売却は正しかったのか?

リーマン・ショック以降、高級ブランド・ビジネスは世界中で総崩れです。
要因は経済や景気だけではないと考えています。

というのも、審美的な商品を扱うにはオーナーの感性がキーポイントなのではないかと考えるようになったからです。

商品デザインだけでなく、営業やマーケティング戦略についても、ブランド・ビジネスでは、誰かがセンスを使って決断をしなくてはなりません。
センスは数字や合議からは得られません。

仕事への強烈な愛着に裏打ちされた天衣無縫な感性の発露はファミリー・ビジネスにならではのものです。
このファミリー・ビジネスの特徴ゆえに、つまりオーナーのセンスが発揮できるゆえに、高級ブランド・ビジネスは上手く行っていたのではないか?

大資本のグループに組み入れられ、四半期決算や株主へのアカウンタビリティ中心の経営に変わることで、高級ブランド・ビジネスは、成功のための基盤を経済危機が訪れるずっと前から弱めてしまっていたのではないか?

そんなふうに思っています。

今回もお読みいただき有難うございます。
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