週刊外資系新聞

営業マネージャーのための予算必達術

メルマガ 2010年5月16日号

第2章 欧米型のマネジメント・スタイルに学ぶ

第3節 プライドと引き換えに味方を得る

かんしゃく持ちの人がいます。
私がビジネスの師と仰いだM氏も短気で気性の激しい人でした。その一方、一流の交渉人でもありました。
強者を相手にした交渉を、一言で切り抜けたM氏の知恵をご紹介します。

M氏は香水から婦人服まで複数のブランド品を扱うフランス系商社の副社長でした。私が働いていた婦人雑貨ブランドの会社は、その商社とメーカーが合弁で作ったジャパン社だったので、M氏は私の上司でもありました。

心臓を悪くされ引退されるまでの2年間、私もM氏には厳しくシゴかれました。
若い頃はイスラエル軍の軍曹をしていたと噂されるM氏は、ビジネスでも鬼軍曹でした。

小柄で固太りの体躯は、60歳を超えてもエネルギーに溢れていました。
首が短くて、顔が体にめり込んでいるように見えます。丸顔に太い黒縁の眼鏡を掛け、禿げた頭を光らせて、ダンヒルの一番強い銘柄の煙草をいつも吸っています。

短気で、興奮すると書類を投げ飛ばすので、私も最初は敬遠していました。
しかし、あるきっかけで尊敬するようになったのです。

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かんしゃく持ちの意外な返答
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「お宅のブランドはこのところ売れ行きが芳しくないようだが、どうなさるおつもりか?」
全国に店舗網を持つ百貨店グループの総帥が切り出しました。

我々の会社の運営しているブティックの売上が低迷していたので、取引先の百貨店から呼びつけられました。
応接室に通される前に、M氏と私は問題のブティックに立ち寄りました。
「ウチ店の立地が悪い。この場所では売れない」とM氏は不満げでした。
ですから、応接室でブティックの売上の低迷を指摘されたとき、M氏はかんしゃくを起こすのではないかと、私は身構えました。

するとどうでしょう。
M氏はいつもの強面から一転破顔、笑顔になったのです。
そして静かな口調でこう話しました。
「どうすれば売れるようになるのか教えてください。我々もメーカーとして出来ることはやりますから、あなたも小売のプロとして手を貸してくれませんか?」

「売上が悪いのはウチのブティックの立地のせいだ。ウチより売上の悪いブランドが、よっぽど立地のいい所に陣取っているのはなぜだ?不公平ではないか」
M氏がそんな応酬をするのを予想していたので、私は驚きました。

先方の百貨店の総帥も、当然打ち返してくると思っていたパンチが返ってこないので、グッと返答につまりました。
最初の気勢は消え入ってしまい、「そういうことなら、具体的なことは売場の部長から改めて…」と、穏やかなトーンに戻りました。
ミーティングが終わるまで、M氏は笑顔を保っていました。

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対立を協調に転じさせる
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私にはすぐ分かりませんでした。
あんなに気性の激しいM氏がなぜ言い返さないのだろう?

M氏の迫力をもってすれば、論破することなぞ容易だろうに。
いや、そうだろうか?
先方は各ブランドの売上データを持っている。
「ウチだけ悪いわけではない」と言い張っても勝てない。
「そんなことはない。我々はデータを持っている」と返されたらそれまでだ。

一敗地にまみれば、今度は相手の言い分を聞く番になりますから、前方の厳しい要求を呑むように迫られます。

つまり、この場合は反論しても勝てません。
せいぜい「見解の違い」をお互いに明らかにし合うだけです。
大抵の交渉事では、このフェーズでの言い合いが延々と続きます。

とはいえ、血の通う人間ですから、仰せの通りと認めてしまうのは、くやしいものです。一矢報いたくなります。
ところが、反射的な応酬話法では余計な事を喋ってしまいがちなので、思わぬ所で不利な言質を取られかねません。
これも控えた方が良さそうです。

よく考えてみると、M氏は何も具体的に約束していません。
それどころか、「小売のプロとして手を貸してくれ」と言って、相手を無理やり互酬関係に引きずり込んだと言えるでしょう。

M氏の論法はこうでした。
あなたの言うとおりだ。反論はしない。
その代わり、我々が何かすれば、あなたも何か返してくれ。

M氏はかんしゃくを抑え、プライドを引っ込めることで、対立を協調に変えてしまいました。
つまり、味方を作りました。

M氏のような師との出会いは、中小規模の外資ならではのことだと思います。
今でもM氏に感謝しています。

今回もお読みいただき有難うございます。
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