週刊外資系新聞

営業マネージャーのための予算必達術

メルマガ 2010年4月25日号

第2章 欧米型のマネジメント・スタイルに学ぶ

第1節 ハンズオンは強い

 日本で出ている「上司術」の本では、部下に仕事を任せ切れない上司はダメ上司だと書かれています。ところが、欧米のエグゼキュティブには、細部を掌握し、細かい指示を出すタイプがよく見られます。これがハンズオン・マネジメント(Hands-on Management)です。
 もちろん部下に仕事は任せます。しかし、丸投げにはせず、細かいことまで口出しをします。ヨーロッパの会社では上に行けば行くほど、こうしたエグゼクティブが増えていきます。
 今回の主人公はフランスの宝飾ブランドの副社長をしていたG氏です。
 日本以上に学歴重視で、エリートは入社時から管理職コースを歩き始めるフランスでは珍しく、営業マンから叩き上げてきた人です。何でも自分でやらなくては気がすまなくて、売上分析のプレゼンが気に入らないと、部下に数字を読み上げさせて、ホワイトボードに自分で板書したりします。そうやって改めて辿り着く結論は、大抵の場合、さっき部下が発表したものと同じだったりします。しかし気迫に満ちた話し方には、誰も異論をはさめません。
 お年はもう70歳を越えています。引退前のご奉公として、グループが買収したブランドのCEOに着任。私の上司の上司になったのでした。
 ライターの営業マンから出世してきたG氏は、社内でも異色の存在でした。話し方も、高級ブランドのイメージとは裏腹な「べらんめえ」調です。興奮してきたり、はたまた上機嫌になってくると、“Bastard!”を連発します。「こんチキショウ!」みたいな語感ですが、育ちの良いフランス人社員たちは困惑していました。
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社長がウィンドーに入っている
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 G氏が日本に視察に来ました。
 ショッピンセンターにある自社のブティックを訪問した時のことです。一行はG氏、ジャパン社の社長、社長秘書、マーケティング部長、そして私。こうした「市場視察」は、年中行事のようなもので、ブティックの立地や、品揃え、陳列方法、販売員の身だしなみなどを本社のCEOがチェックし、「あーしろ、こーしろ」とその場の思い付きを喋って終わりとなります。
 G氏の場合は違いました。何も言いません。
 ショーウィンドーの陳列をじっと見つめています。
 やにわにブティックの販売員にウィンドーの鍵を開けさせ、上着をジャパン社の社長に渡し、靴を脱いでウィンドーの中に入って行ってしまいました。
 ウィンドーの中ではシャツ一枚のG氏が陳列をやり直しています。こちらに向かって何か大きな声で言っているのですが、分厚いウィンドーのガラス越しなので、聞き取れません。しきりに“Bastard”と唇が動くのは、見て取れました。
「私たちがやりますから、指示だけしてください」などと、とても横から言えない気迫です。
 ウィンドーの中は照明がたくさん点いているので、とても暑いのです。G氏も作業を途中でやめました。シャツの背中を汗で貼り付かせて、ウィンドーから出てくるなり、「後はオレが言ったようにしておけ、Bastard!」とG氏は我々に命じました。
「ガラス越しでお声が聞こえませんでした」と聞き返す勇気は誰にもありませんでした。
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細部からの透視図法
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 これは社長がする仕事じゃない。私はその時そう思いました。
 今は違います。
 たいして大きくない組織でも、ビジネスの全体像を掌握するのは難しいものです。
 マネジャーは部下からの報告を受けて、事態を把握します。同じ出来事に対しても、部下ごとの報告には温度差があります。本当は何が起きているのか、判断に迷います。G氏のようなトップの立場では、判断停止は許されません。
 どうしたらいいのでしょう?
 G氏の直截な振る舞いにヒントがあると思いました。
肌で実感できる細部を通して、全体像を一気に把握してしまおう。G氏のハンズオン・マネジメントは、ディテールの鍵穴から全体を見通す透視図法だったのではないかと思い至りました。
 何でも自分でやろうとすると、必ず失敗する。クイック・ウィンの上司の陥穽として、以前のメルマガで書きました。とはいえ、部下からのレポートや数表で把握できることは限られています。顧客接点のディテールを実感していれば、営業責任者として間違った判断を下すことは避けられるでしょう。
「大所高所からの視点がない」。
 ハンズオン・マネジメントはそのように欠点を指摘されそうです。しかし、G氏が教えてくれたのは、細部を通してこそ、全体像は見えてくるということでした。
 あなたもウィンドーの中に入ってみませんか?
 今回もお読みいただき有難うございます。
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