週刊外資系新聞

営業マネージャーのための予算必達術

メルマガ 2010年2月21日号

第1章 上司が欧米人

第7節 クイック・ウィン上司を説得する

前回は私の働いていた業界特有の話だったかもしれません。
今回はもう少し一般的で、応用の効く方法をご紹介します。

クイック・ウィンの上司と、楽しく折り合いをつけて働く方法。
その二は、「上司の思考法を観察し、
その思考法に沿った話の組み立てをしよう」です。

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優れたプレゼンでも却下される
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私の働いていた会社のフランスの本社に
新しいCEO(雇われ社長)が就任しました。
年は40代の半ば。ラグビーのフォワードができそうながっしりした男です。
彼の自慢は頭脳の明晰さ。

フランスで出世したかったら、大学ではなく
グラン・ゼコールを出なくてはダメだ。
などとよく言われますが、彼は理系のグラン・ゼコールの中でも
最難関とされるエコール・ポリテクニークの卒業生でした。
おまけに弟も同じ学校を出ていて、
兄弟揃ってポリテクニーク出というのは前例がない、
と威張ってました。
(グラン・ゼコールというのは理工系の技術者を育てるために、
18世紀にできた専門学校です。その後、商業や行政の教育の分野にも
広がり、全国で200校くらいあります。少数精鋭教育が特長で、
卒業生はフランスの官財界を牛耳っています。
カルロス・ゴーン氏は、理系グラン・ゼコールでトップ・スリーに
ランクされる国立高等鉱業学校の出身です。)

そのころ私は日本の子会社の経営を任されたばかりでした。
子会社の社長たちは、年に一回パリの本社に行って
翌年の経営計画を説明し、承認を受けなくてはなりません。
私も見よう見まねで、一応それらしきモノは用意して行きました。
でも、ジャパン社の業績が不振を極めていた時期だったので、
「とにかく、ガンバリます」といった内容のものでした。

本社の会議室。
私のプレゼンに先立って、香港とアメリカの子会社のプレゼンがありました。
グラフや数表を使って今年の実績を分析し、
「来年は売上を20%伸ばす計画である」なんて堂々と語ります。
傍で聞いていた私は「やばい。売上そんなに伸ばしちゃうの?」と
焦りました。

ところが、香港子会社のプレゼンも、アメリカ子のプレゼンも
新CEO氏からケチョンケチョンに批判されます。

よくできたプレゼンテーションだったんですよ。
論理的な整合性が取れていて、すーっと納得できる内容でした。
映し出すスライドも格好よく作ってあって、私は感心しながら見てました。
でも新CEO氏にはダメだったんです。
店別、商品別の売上と収益の細かな数字まで説明を求め、
切っ先鋭い質問をし、
口の中でムニャムニャ言いながら暗算で検算をし、
(意外でしょうがフランスのエリートは暗算が得意です)
最後にこう言いました。
「今年と同じコトをやって、どうしてそんなに売上が伸びるのかね?
根拠が曖昧である。計画を見直すべし。」

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困った。ピンチだ。
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明日は私のプレゼンの番です。
ホテルに帰って頭を抱えました。
「売上を20パーセントも伸ばす積極プランでもダメなのに、
私が用意したのは5パーセント成長の計画だ。
こりゃ、書類を投げつけられるかもしれない」。

「そうだ!」
ガバっと起きて、時計を見たらまだ朝の4時でした。
会議は10時から。時間はまだある。
ラップトップ・パソコンの蓋を開け、計画のやり直しを始めました。
突然気が付いたんです。
「格好良くまとまったプランは、彼にとっては
“お茶を濁している”くらいにしか映らないんだ。
この際だから、今まで温めていた考えの中から
一番極端な計画を出してみよう」と。

売上計画を思い切って前年比マイナスに修正しました。
今年より売上を減らすというのです。
当時のジャパン社は、業績の不振をカバーするために
バーゲン・セールを積極的にしていました。
安売りすれば売上金額は増えます。でも、儲かりません。
クタビレ損の仕事をいつかはストップしたいと考えていました。
「バーゲンをやめよう。安売りでも販売に手間はかかるし、
ブランド・イメージは落ちるし、いいことない」。

定価で販売した分の売上と収益の実績。
バーゲンで販売した分の売上と収益の実績。
この二つを対比した表ができたのが、朝の7時。
見れば売上の3割がバーゲン・セールによるものでした。
てことは、バーゲンをやめると売上は3割ダウン。
さすがにこのままではダメです。
定価販売を伸ばす仕掛けを計画に入れ込んで、
売上を前年の1割ダウンにまで戻し、どうにかプランをまとめました。

カッコいいスライドを作る時間はもうありません。
エクセルの数表のままで見せ、
後は口で説明しようと決めて、ホテルの部屋を出ました。

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突っ返されるか? マイナス予算
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朝10時、本社の会議室。
決して見やすくない数表を、私がしどろもどろの英語で説明します。
無言でうなずきながら、新CEO氏はまた暗算で検算をやっています。

売上を減らすのが今のジャパン社にとっては良いことなのだ。
という、分かりにくい話を、分かりにくいまま説明しました。
会議室は「しーん」。

香港とアメリカの子会社の社長は書類に目を落としながら、
私がどんな風に料理されるのか待っています。

「定価販売を伸ばすのは分かった。その方法だが、あなたの言っている
“新製品早期投入作戦”で上手くいくのかね? その根拠は何かね?」
ほら来た。意地悪質問。

「考えたんですが分かりません。でも今思いつく作戦はこれだけです。」
突っ込まれたら、こう答えようと考えていました。

「分かった・・・。それで、新製品はいつまでに工場を出せばいいんだ?」
新CEO氏が尋ねます。話題が前に進みました。
マイナス予算がすんなり通るとは思っていなかったので、驚きました。

私は運が良かったんですね。
香港とアメリカの子会社のプレゼンが却下される様子を見て、
新CEO氏の思考法を予習できたんですから。
彼は、錯綜した数字や情報を理解することに卓越した能力を持つ人間でした。
また、それを誇ってもいました。
意図した結論を導くめに、都合のよい数字をピックアップしたプレゼンには
拒絶反応を起こしたのですね。
私のナマな計画の方に、真剣味を感じたのかもしれません。

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思考法のクセを見抜こう
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「その人が他人を説得する様子を良く見なさい。なぜなら、それは
その人自身がそうやって説得してもらいたい様子を表しているから。」
格言めいた言い方をすると、こういう教訓を得ました。

人それぞれ、思考法にはクセがあります。
複雑なことを単純化するのに長けている人。
複雑なことを複雑なまま理解することを尊重する人。
今回のケースでは、香港とアメリカの子会社のプレゼンは、
筋が通ってすっきりはしているが、モノゴトを単純化し過ぎてたんですね。

私たちは話が通じないとき、言い換えたり、言い直したりします。
その場合、相手の思考法のクセまでは考えていません。
自分の思考法のクセに任せて、話をどんどん単純化していくか、
逆にヤヤコシクしてしまいます。
これ、自分で自分を一生懸命説得してるだけなんですね。
それでも話が通じなくて、最後には相手がバカなのだと決め付けてしまう。
(私の場合、夫婦喧嘩の発端は大抵これです。)

単純化志向・複雑性尊重という以外にも思考法のクセはあります。
論理的に少々強引であっても、結果が望ましければOKとする人。
反対に、導き出される結果はどうあれ、論理の整合性を追及する人。

クイック・ウィンの上司は結果志向ですから、
少しくらい論理に飛躍があっても気にしません。
ただし、短期で頑固ですが頭はいいので、
予定調和的にデータを取捨選択したプレゼンは拒絶します。
こじれた話はこじれた話として話す方がいいんです。

事実を話すのが大事なんですよ。論理は途中で破綻していてもいいんです。
本当頭がいい人は、そこを補って聞きます。
(鋭い質問は来ます。それには、「私には分かんない。
あなたの優秀な頭脳で論理の間隙を埋めてください」と
認めちゃえばいいんです。私がやったみたいに。)

日常的に接している直属の上司が相手なら、
こうした思考法のクセを見抜ける機会がいっぱいあるでしょう。
彼・彼女が「こうやって私は説得されたいんだ」という方法を
探ってください。

さて、この新CEO氏ですが、たった半年で会社を去りました。
自らの頭脳の明晰さに溺れ、人心が離反したのだと聞かされました。

さて、次回はクイック・ウィンの上司対策、その3です。
外資系企業では、部下は上司の失脚に備えておく必要があります。
具体的に何をしとけばいいのでしょうか?

今回もお読みいただきありがとうございます。
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